ハンセン病はらい菌によって引き起こされる感染症の一つです。

未治療患者からの飛沫感染によって感染すると言われていますが、らい菌の感染力は極めて弱く、乳幼児期に濃厚で頻回な感染を受けた者以外、ほとんど発病につながることはありません。

発症した場合、初期症状として知覚麻痺をともなう斑紋があらわれます。治療が遅れた場合、手足や顔の変形、視力障害などの後遺症を引き起こすことがあります。

ハンセン病の治療にはWHOの推奨する多剤併用療法(MDT: Multidrug Therapy)が用いられ、MDTは世界各国に無償で提供されています。
早期の治療により、ハンセン病は後遺症を残すことなく完治します。また、既に後遺症を発症している場合、治療後も後遺症は残ってしまいますが、ハンセン病自体は完治します。

インドネシアでは年間約17,000人が新たにハンセン病を発症しており、インド、ブラジルに次いで世界で3番目に新規患者数の多い国です。

国レベルでは2000年にハンセン病の制圧(WHOの定めるハンセン病制圧基準:登録患者数が人口1万人あたり1人を下回る=有病率が1.0を下回る)を達成し、州レベルにおいても未制圧州は残り8州(北スラウェシ州、南スラウェシ州、西スラウェシ州、ゴロンタロ州、マルク州、北マルク州、パプア州、西パプア州)となっています。

政府・地方政府・関係省庁の制圧に向けた取り組みがすすめられており、また新規患者に対してはMDTによる治療が施されるため、約17,000人という数字自体は医療的側面から見た場合、とりわけ大きな問題ではありません。

問題となるのは、社会的側面、つまり、制圧に向けた新規患者の早期発見やハンセン病が治癒した後の快復者の社会復帰を妨げるハンセン病に対する社会の差別や偏見です。

新規患者数約1.7万人という数字は、「ハンセン病をわずらったことがあるという理由だけで差別を受ける可能性がある人々の数」という点で問題となります。

社会にはハンセン病に対して「感染力の高い恐ろしい病気」「呪い」「触れるだけで感染する」などの誤った理解からもたらされる、ハンセン病快復者に対する差別や偏見が根強く残っています。また、ハンセン病快復者を両親や祖父母に持つ子どもたちも、差別の対象となることがあります。

このような社会に残る差別の結果、ハンセン病は既に治っているにも関わらず、家族から棄てられたり社会から受け入れられず、住む場所さえ失う人が多くいます。彼らは、インドネシア全土に約50ヶ所あるとされる「ハンセン病快復コロニー」と呼ばれる場所に集まって暮らしています。